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オフィス宮崎では「外国語にする」(ほとんどは英語にですが)という仕事も重要な柱のひとつです。オフィス設立当初は、代表の宮崎が一旦英語にしたものを、ネイティブのライターがリライトするというプロセスでしたが、その時代は、あっという間に終焉を迎えました。
私たちは、その国で読まれる本はその国の言語を母国語としている翻訳者が翻訳するべき、という方針のもと、たくさんの外国語訳プロジェクトにかかわっています。もちろん、当初は小説などの文芸作品とはほど遠い、実用的なものがほとんどで、ビジュアル中心の本やカタログでしたが、やればやるほど、もっとこの分野に力を入れていきたいと思うようになっていったのです。

2016年より官邸主導のJapan Libraryにて翻訳を手がける
2016年より官邸主導のJapan Libraryにて翻訳を手がける

横文字で書かれる間違った日本のイメージ!

昔々、オフィス宮崎はある外国雑誌のリサーチ、といえばかっこいいですが、いわゆる「日本に関する記事の裏取り」のような、砂を嚙むような地道な仕事に携わっていました。人の名前の読み方や、ほんとうにその人がそう言ったかなどを確認する、あれです。YouTubeが世の中に登場するたった30年前、海外の雑誌が紹介する日本に関する記事は、必ずといっていいほど問題がありました。日本人がちょんまげをつけているみたいな記述はさすがにありませんでしたが、逆に日本に対するファンタジーが強すぎて、すでに十分欧米化した日本を信じたくなかったみたいです。
あるとき、日本にある自動販売機の売上げ額を確認しろと言われ、しかるべき協会に連絡して数字を入手したのですが、海外の本部から「そんなのありえない。シンガポールのGNPより大きいなんて!」と、お叱りをうけました。それで、東京では○○平方メートル内に平均何台あって、面積がこれこれだから数字はこうなります、と数式まで書いてやっと納得してもらいました。日本のことをちゃんと理解してもらうにはもっと縦のものを横にしていかなければと痛感していた時代です。

世界19ヵ国語に翻訳されたKokologyシリーズ
世界19ヵ国語に翻訳されたKokologyシリーズ

ローカライズして発信

そんなとき、Kokologyという日本の心理ゲーム本を海外に紹介するお手伝いというミッションが舞い込んできました。当時、格調高く、文化の香り漂う和書は、海外の著名な日本学者の先生方によって翻訳され、紹介されていましたし、エンターテインメント本や実用書などは、一部のマニアにうけていたマンガやアニメ関連本を除いて、海外の一般読者に売れるということはありませんでした。Kokologyは、「それいけココロジー」というテレビの心理クイズ番組を本にしたもので、ベストセラーとなり、シリーズ化されていました。短いクイズで心理状態を当てる、というような今で言えば合コンネタになるようなパーティ・ゲームです。

ここで私たちは初めてローカライズと呼ばれる仕事にチャレンジしました。ダグラス・シップという当時日本のゲーム会社で働いていた翻訳者と一緒に売り込み材料を作ったところ、アメリカ最大手の出版社の複数が権利を欲しがったそうです。何冊ものシリーズ本のなかから海外で通用するものをだけピックアップして、内容を英語で翻訳&リライトして一冊の本にしました。結果、この本はアメリカでうん十万部も売れ、世界19ヵ国語に翻訳されました。アメリカの版元から第2弾のリクエストまできたほどです。

Kokologyのような本は、ローカライズして作り上げる割合が大きすぎて、一般的な翻訳のプロセスには当てはまりませんが、ミステリーやエッセイなど、多くの人に読んでもらいたい文章には、若干のこうした技術は必要なのだと、日々思い知らされています。

東山魁夷や村上隆などアート関連の翻訳も手掛ける
東山魁夷や村上隆などアート関連の翻訳も手掛ける

オフィス宮崎の特色

日本語にするときも、単に横を縦にすればいいというものではなく、人様に読んでいただくためには(そしてお金をだして本を買っていただくためには)、どんな短いパンフレットの文章であっても誤訳チェックやいい文章にするための作業は必要です。分量が長くなればなるほど誤植や勘違いは起こるものです。それをクリアにしてはじめて作品(商品)となるわけで、だから印刷されたものを出版するときに校閲や校正というプロがかならずかかわるのです。

外国語に訳すときには、そこにかかわる人たちがそっくりそのまま入れ替わるわけです。つまり、その本や文章が読まれる言語を母国語にしている優秀な翻訳者と、それをさらによい文章で作品にするためのネイティブの編集者が必要条件です。30年前に比べたら、ネイティブのスーパー翻訳者の数は確実に増えていますが、世の中に出回っている英訳書の多くはあまり文章がよくないと言われるのも、プロがまだそれほどいないからです。
オフィス宮崎は、その言語を母国語としている翻訳者、編集者の実力と良心を拠り所として、これからも、海外に言葉を発信していくお手伝いをしたいと思っています。
私たちが思っているほど、世界には日本を理解している人の数は少ないのです。

 


“An Introduction to Yōkai Culture”
(『妖怪文化入門』の英訳)


著者 Komatsu Kazuhiko(小松和彦)


翻訳 Hiroko Yoda and Matt Alt


言語 日本語 → 英語


判型 Hardcover
出版社 JPIC
発売日 2017.3.